超時空の夜

作家/ちいさな出版社「世瞬舎」代表 

心象風景というお店の話

 企業の顔ともいえるロゴは、時によっては企業そのものよりも長く残る場合がある(かもしれない)。

 世瞬舎の書籍には、必ずこのロゴが刻印されている。

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 もう二年近く前になるだろうか。この世瞬舎のロゴを制作いただいたのが、ブックカバーと物語の店『心象風景』の店主コジさんだった。

 自身で描かれた抽象画のブックカバーはどれも素晴らしく、その世界観に魅了されたファンも多くいるようだ。僕もその一人であった。

 そんな『心象風景』が、今月いっぱいで閉店となるらしい。

 

note.com

 

 僕は、コジさんがネット上で創作活動をはじめたほぼほぼ当初からその存在を知っていた。そして現在に至るまで陰ながら、たまにはロゴ制作などのお仕事を発注しつつ、ずっとお店の様子を見守らせてもらっていた。 

 

 思い出話はもう三年ほど前になる。

 まだ世瞬舎を立ち上げる以前、WEB投稿サイトのnoteにて、神谷京介名義でいくつか小説作品を投稿していた。noteでは、創作を共にするたくさんの方との出会いがあったが、とりわけ印象的で、ものすごいエネルギーを放射していたのがコジさんだった。

 

 たしか「#小説」とかで検索して、コジさんの作品に偶然たどり着いた。

『あいた口』という短編小説を発表されていて、こちらがとても衝撃的だった。その作品との出会いは鮮烈というほかなく、ちょっとたじろぐくらいだった。コジさんがnoteで発表されているほかの作品にもすぐに興味が湧き、詳しく調べてみると、どうやら絵も描くらしかった。そのころの作風は今とはちょっとちがっていて、抽象画ではなく、はっきりとしたものを描いている作品も多くあった。ちなみに『あいた口』の挿画もコジさん自身が描く、口をおおきく開けた女の子(?)の絵だった。

 

 この時点でのコジさんもまた、僕と同じくnoteから本格的なネット活動をはじめて間もないようで、ざっくりいえば、ほぼ陽の目を浴びてない様子だった。そして、僕も同じような境遇だからなおさらわかるのか、なんというかまだ慣れていない感じ、手探り感がすごいした。

 創作以外の日記風の文章なんかも上げていて、彼女の素朴でまっすぐな人柄を知るたび、堂々とした書きぶりの『あいた口』とのギャップがおおきすぎて、再びたじろいだ。ただそのギャップは、創作に関してとても強い芯を持っていることの裏返しとも取れ、彼女自身のおおきな魅力のひとつだった。

 僕は勇気をもって同作の感想をコジさんに送った。以来、お互いのnoteに投稿した作品を読んだり、イベントに参加して顔を合わせたりと、よき交流が生まれることになる。

 

 コジさんはだんだんとブックカバーの制作と絵画の制作に注力するようになった。

コジさんのお店『心象風景』は、noteユーザーを中心としてだんだんファンを増やしていった。お店が成長していく様子はとてもまばゆくて、コジさん自身の様子も、店主としてのふるまいというか、堂々と構えるようになった(と感じていた)。それは創作をつづける僕にとっていつもいい刺激になった。

 コジさんはいつでも、とてつもなくがんばっていて、ずっと自分自身の創作を大事にしていた。けしてよく売れるジャンルではないであろう抽象画のブックカバー店を何年も運営していくのは、大変なんて言葉で表すよりずっと大変だったはずだ。いろんな迷いや葛藤もあったのではないか。

 

(と、こうしてわかった風に書くのも、それなりに見つづけてきたという自負のようなものもあったりする。ただ実際は僕の想像する数倍は大変だったのだと思われ、そこは一線を引いておく)

 

 自分自身の創作を大切にすることは、同時に人の創作、もうちょっと広く言えばそれぞれが大切にしている世界も大切に思い、理解を示すことでもある。

 そのような意味で、コジさんが「世界を守る」とのコンセプトをブックカバーにこめたのは必然でもあった。なにより自分の創作を守っていたからこそ、人の創作も守ることができる。

 描く絵も、派手な色使いで鮮烈な印象だった初期から、やさしさと強さが同居した独特の雰囲気にシフトチェンジしていったのも、必然だったのかもしれない。

 

 世瞬舎ロゴ制作時は、まだ発売前の『未来の言葉』を読み込んでいただき、打ち合わせを重ねながら、僕の拙い言葉を拾いながら形にしてくださった。このロゴを今でも大事に使っているのは先に書いたとおりだ。

 

 

 ……といった変遷を経て、今でもコジさんとは交流をつづけているし、先日は新商品のカレンダーも買ったりした。

 交流というのが具体的にどんな関係なのかを示すのは野暮かもしれないが、僕はコジさんのことを戦友だと思っている。三年前からずっと創作をつづけている、同期の戦友。

 

 僕にも世瞬舎という出版社ができて、その感はいっそう強まった。この社会で創作をつづけていくことの困難さを、コジさんも僕もよく知っていた。今回の『心象風景』閉店は、そういう背景とそういう気持ちが入り混じった末のさみしさを感じた。喪失感にも似ている。

 とはいえ、この選択の先に、コジさんにとって明るい未来が待っていることは、ほとんど間違いない。なによりも誠実に創作と向き合った末の答えを、僕はささやかながら応援したい。

 

 創作を愛し、打ち込むことと、それが金銭的な対価を得ることはまったく別であり、かかる時間や知名度などが重要なわけでもない。

 創作とはそれが創作であるだけで大切にされるべきだ。

 今回、心象風景のお店はなくなってしまうとしても、コジさんが作家であり画家であることは変わらない。いつでももどってこれるし、いつまでも作品は残る。どうか気楽にかまえてほしいな、と、のんきな僕は思う。

 僕自身も明日どうなるかわからない身だ。だからこそ戦友であったわけだが、コジさんがもどってこれたときの用意も兼ねて、今は自分自身の仕事にせいいっぱい打ち込んでいきたい。

 

 

 

 ところで、閉店セールをやっているらしい。

 

bookartkoji.thebase.in

 

 ブックカバーは永く使える買い物です。本好きな方なら、へたすると一生かもしれん。新しい家族とともに歩んでいくコジさんへの応援の意味でもよいと思う。素敵なアイテムばかりなので、いちど覗いてみてはいかがでしょうか。