超時空の夜

作家/ちいさな出版社「世瞬舎」代表 

赤入れ

 最近特に気を張ってやっている仕事は原稿の赤入れなのだが、こちらはとてもやりがいがあるというか、いい作業だ。

 

 同時並行で進めている二作、それぞれまったくちがう作風の小説である。作家さんの文体もまったくちがう。

 文章に同じものはひとつとしてないのだなぁと、月並みなことを思う。

 

 赤入れというのは罪な仕事(?)で、原稿に赤字修正をつけて作家さんに返さなければならない。なかなかこころが痛むが、「いい本にする」という最終到達点に向けたチームであるとすれば、遠慮はかえってよくない。とはいえ、なんでもかんでも平易で読みやすい文章に直せばいいのともちがう。今回のお二方については、確固たる自身の文体が(無自覚かもしれないけれど)ある。そこをより活かして、引き立たせるような。で、結果、本として光をはなつ作品になっていけばいい。

 

 人の文章には癖も出る。これは走り方の癖といったものに近いかもしれない。こちらのほうが、思想よりもフィジカルな部分に直結して、文章のむらとして出やすい印象だ。こちらを探して、どう付き合っていくかを提案するのもまた編集の仕事なのかもしれない。

 

 一字一句読んでいく中で、作家が伝えたいことがより精細に見えたりもする。この発見がふと訪れるときは、とてもとてもうれしい。僕もこの物語に手を伸ばせたのだ、という証明をもらったような気さえする。

 

 このように、物語を探り、ああでもないこうでもないとやっていくことで、だんだん物語は姿を表していったりもする。消えてしまった一文がこの世からなくなるわけでもないはずだ。

 いろんなすべてを焼きつけて、今日も一歩ずつ、本づくりをつづけていく。