超時空の夜

作家/ちいさな出版社「世瞬舎」代表 

夢の話と私事

 不思議な夢を見た。

 宇宙船の窓から銀河を眺めたりしていた気がする。

 そこで自分が生きているわけではなくて、漫画だか映画だか、媒体は判然としないが、宇宙を舞台にしたひとつの作品を鑑賞しているといった形の夢だった。

 

 男の子と女の子が同じ宇宙船に乗っていて、廊下(?)みたいなところで会話しているのだけど、コマ割りが独特だった。1ページが上段・中段・下段の三つのコマに分割されていて、上段には男の子の顔、中段には窓から見える宇宙の景色、下段には女の子の顔が描かれていて、二人がしゃべりながら景色も動き、1ページ内で三つの同じ瞬間を映している。

(文章を書くのが久しぶりなので、説明が下手になってる)

 

 最近、夜に数回目覚めて、そのうちの一、二回はなかなか眠れないので、いつも直前に見た夢を思い返して時間を潰す。宇宙の夢は、おそらくだけど、僕の作品だったようだ。なんとなく、書けそうだな、と確信した。あれは僕の作品だったのだ。

 

 夢の最後のことを書き忘れていた。

 宇宙を舞台にしたその作品は、なんだかんだで終わるのだが(そしてそのなんだかんだをすべて忘れてしまったのだが)、最後、宇宙の記憶が星屑のようにばらけて、屑になったすべてがコップに落ちていくみたいに、とある地球に住む男の子……男の子といってもたぶん20代くらいなのだけど、の記憶におさまる。

 地球の男の子は、きっとあの記憶は僕だったのだな、と確信して家にもどる。自室の机でなにかを書いている。その作品を書いている。独特なコマ割りも、さっき見たあれと同じだ。彼は作者になろうとしている、作品をつくっているのだ。

 

 そこからしばらくは、執筆に打ち込む彼の姿をひたすら眺めることになる。

 彼は何日も自室から出ずに書きつづけているようだ。それ以外のことは、パンかなにかを食べたり、窮屈そうなベッドで寝るくらいしかしない。

 彼はとても幸せそうに見える。満ち足りた表情をしている。

 執筆のときは無表情だが、一日の作業をおえて眠りにつくとき、とてもうれしそうな顔をする。

 第一は、作品がこの世に表れること、第二には、その作業を自分の手が担っていること、第三に、その作業を延々とつづけられるこの世界であることに、とてつもない僥倖を感じているようだった。

 不思議なことに、たった一人でやっているはずのその作業において、彼は世界とのつながりを感じているようだった。だれかと会話をするとか、仕事をして感謝されるとかではなく、たった一人のその作業こそが、彼にとっては世界との交点であり、そうであるがゆえに、自分はこの世界に生きていていいのだ、と思うのだと彼は言う。

 言ってはいないが、表情がそう言っていた。

 

 ただそれだけ、というのが特に難しい。生きていく上で、俗世の醜悪と暴力は、常についてまわる。

 いきなり私事になるが、先日、離婚をしました。経済的な理由からです。

 収入がずっとマイナスを更新しつづけているのに、逆によくこの一年ほどの今まで付き合ってくれていたなと思っていて、感謝しかないです。

 この出版社の仕事が軌道に乗って、収入が安定して、野草をてんぷらにして食べるとか言わなくても生きていけるようになれば、復縁しようという話になっている。

 なので、それも目標のひとつになってしまった。

 とんでもなくありがたい話だ。感謝しなさいよと母親にも言われた。

 

 

 今は都内のワンルームのアパートに住んでいる。なぜか備え付けエアコンのリモコンが入居時から紛失していて、外気温によってはかなり寒い(管理会社に言ってリモコンは手配してもらってる)

 ここで、朝から晩まで仕事をしている。けっこうがんばってると思う。

 今までは家事があったので、それらを片付けてから仕事、という感じだったが、今は起きてすぐ、そばにある机に座ってPCを開けばいい。昨夜の飲みかけの冷たいコーヒーをすすりながら。

 

 本づくりは膨大で、日々さまざまなタスクが舞い降りてくる。新しい知識や経験が日々あって、デザインや校正など、いくつかの会社さまからいろいろ教えていただきながら、なんとか編集っぽい仕事ぶりになってきたような気がする。

 さながら建築工事のようで、各部門が力を合わせて、本というひとつの物体というか、物語がつくられていく様子は、神々しいとまで言うとあれかもしれないが、それくらいのことを言いたい気持ちだ。忙しいけれど、とても楽しくやれてる。

 

 わがままも貫き通すとこんな感じになるが、一般的にはほめられたものではないのかもしれない。

 もう少しなのか、まだ時間がかかるのかはわからないし、そしてこのまま生きていけるのかもわからないが、自分なりのいとしい毎日を過ごしている。