超時空の夜

作家/ちいさな出版社「世瞬舎」代表 

世の中の本をすべて無料で読めるようにしたいかもしれない

 これからは、このような雑感的記事を折にふれて書いていこうかなと思っています。体系的な理論にまとめるまでのあくまでも暫定的な気分の流れというか、聞き流していい話……程度の認識でいてくれると助かります。

 

 今日の記事のテーマはタイトルのとおりです(タイトルもちょっと悩みました。断定的な物言いにしちゃうとあれかなとか・・)。

 今の世の中、本はお金を払って買うものですがそれをナシにできないかなぁ、とかよく考えています。

 もちろん、現時点この社会では有料でなければならないに決まってます。原価やそれ以前に必要な技能がどれだけ一冊の本に集約されているかは身をもって感じていますし、私自身は出版社の立場だけど、書店や取次、印刷会社などさまざまなステークホルダーの利益も関連します。

 

 ただ、私自身が「本や読書は文化的なインフラと考えたい」という立場のため、あくまでも将来的な話だけど、すべての本が無償で無条件に提供される世の中、も検討されるべきでは? と考えています。

 お金がないから事故にあっても救急車が呼べません、とはならないですよね。公共サービスなので、救急隊員の方に直接お金を払うわけではないです。端的に公共サービスにすればよいのは、に近くはあれどもう少し複雑なことを考えています。

 

 今でも公共サービスとして無償で読書が提供されている場所はあります。説明するまでもないですが、図書館のことですね……。

 思えば私は、世の中の大半の本は図書館を通じて読んでいました。今でもそうですし、学生時代はもっとそうでした。

 そしてそうでなければ、人生での読書量はもう圧倒的に減っていたはずです。100分の1くらいに減ったかもしれません。

 

 もちろん、学生時代から本は購入して読むのが当たり前だった人もいるはずです。衛生面を気にするとか、当時の私のようにそもそも買い物の仕方がわからなかった(自販機でしか買い物ができなかった)などその人その人の金銭面以外の事情もあるはずです。

 

 消費増税や物価高などで日本人の実質的な所得が減っていく中で、いわゆる余暇にかける時間もお金も全体として減りつづけていて、一方で、余暇や趣味の範囲を含めた世の中全体のいわゆる商品(モノやサービス、もちろん本も含む)の総量は増え続けています※まだ統計を確認したわけではないですが印象として私個人はそう思っています。

 その結果であるのかないのか、書籍の総売り上げは90年代中盤ごろから低迷傾向にあります。

 

 もっと個人的な範囲でいうと、自社の本はもちろんたくさんの人に読んでほしいけれど、そのお金がどこから出るのかと考えたときに胸がいたむような気がちょっとします。

 これが石油王とか、高所得者向けの商売をしているのならば別かもしれません。

(あと、自社の商品に自信を持っていれば堂々とお金をもらえるとかそういう軸の話でもないです)

 特別お金持ちでもない多くの若い人に向けた活動をしていきたいと考えたときに、1冊で千数百円の本を買える余裕が果たして今の世の中の大勢の人にあるのか? とも感じます。

 仮にですけどうちの本にそれだけの価値を感じてもらって買ってもらうことがあるかもしれず、それはうれしいことだけど、その分なにか(世の中のほかの本だったり商品だったり)を買う機会を犠牲にしていることには変わりなくないか? とも思うし。

 

 

 もうじき世瞬舎の第一期はおわるのですが(前回のブログ参照)、第二期以降はこの辺りの考察をもっと深めて、なにか確実な手ごたえを掴みたいです。

 

 今の段階の思いつきレベルで話せるならば、やっぱり無料で多くの人に読んでもらうほうが私はいいです。人類全体にとっての文化的な便益で考えてもそうなのかなぁと感じます。

 本や読書を文化的「インフラ」と定義するのならば、収入やその他によって読める人と読めない人が発生するのは本質的には望ましくないです。

 世の中のすべての本が無料で、無条件に読めることが理想かもしれません。

 無条件に、というのは、言語や身体的なハンディキャップや認知能力・読解力なども超克して、という意味です。

 

 もちろんそれをどうやって実現していくのか、という話で、世の中に経済という前提条件がある以上、後ろ盾がこうであるという設計は必要です。出版業界だけでなんとかなる話でもなさそうです。無条件に、のほうに至ってはテクノロジーの進化も必要かもしれません。

 

 このようなことを今日は文章にまとめてみました。これでひとつ素材ができたわけなので、活かしつつ、もうちょっとちゃんとした理論体系にできるように勉強していきます。

 

 近い視点に降りて自社の話で終わるならば、直接の消費者から直接お金をいただく現状のモデルよりも、もうちょっといい形(たとえば企業にスポンサーになってもらうとか)くらいからなら、自社だけでとりあえずはじめられるかも? とか考えたりもします。

 

 いろいろやっていくには私自身の体力が不安ですが、休み休みしつつ、未来をつくっていく仕事につけている幸福を感じながら、ぼちぼちやっていきます。